医療のしおり/外科的診療Medical news

鏡視下滑膜切除術について

はじめに
関節鏡(胃カメラのようなカメラ)を用いて滑膜を切り取る手術で一般的に膝関節に行われています。 今回は膝関節について述べていきたいとおもいます。
関節リウマチの関節障害
リウマチによる炎症の場は、「滑膜」であり、滑膜炎から、軟骨、骨へと影響が及んでいくことを特徴とします。 この炎症の引き金になる原因、つまりリウマチの原因は未だに究明できていませんが、進行していく仕組みについてはかなり 解明されてきています。炎症何らかの原因で、滑膜に炎症が始まると、薄い滑膜は肥厚し腫れてきます。膝が腫れてくる これは炎症細胞群と共に滑膜細胞群増殖していくためです。浸出液そしてこれらの細胞群は炎症性の浸出液を排出します。これが膝関節では水が溜まる、という現象です。 この浸出液の中には関節の軟骨を溶かそうとする有害物質が含まれています。滑膜炎が続いている状態では、 軟骨は有害物質を含んだ炎症性の浸出液のため次第に弱っていき、運動時の摩擦も加わり消失していきます。軟骨が溶ける 軟骨が消失して骨面が露出すると、増殖した滑膜組織が骨の中に進入し、滑膜細胞から放出される物質で骨が吸収され、骨破壊が進んでいきます。膝が痛い膝が痛い場合、①膝関節では水が溜舞った場合と②骨軟骨が吸収され荷重時または運動時痛がある場合があります。
関節炎(滑膜炎)の処置
上記の①場合、リウマチによる多関節炎が続くと抗リウマチ剤などの薬物療法で何とか炎症を抑えようとします。 しかし薬物療法で効果が限られる場合、腫脹関節が限られている場合は、その関節に対して局所療法を行います。 これを膝についていえば、早期で水腫(水が溜まる状態)が続く場合、注射注射器で水を抜き、ステロイドを注入します。 このことについて、水を抜くと癖になるから抜かないほうがいい、そのままにしておいた方がいい・・・という風評(?)もあります。有害物質しかし炎症による浸出液(いわゆる水)のなかには軟骨などを溶かす有害物質が含まれておりますので、水の溜まったままにして我慢しないほうが良いとおもいます。 ステロイドの注入で滑膜炎はかなり改善しますし、その後の進行も抑えられますが、 一方ではステロイドによる骨または軟骨などを弱くする副作用もありますので頻回には使用できません。 炎症が長く続いたり、その程度が強いと、関節内に炎症産物など固形物が溜まり、通常の注射針では抜けにくくなり、 ステロイドを注入しても再発を繰り返すことがあります。この場合は、当院では固形物を洗い出すために、 太目の特別な針で関節洗浄を行う方法を行います。局所麻酔を行い、2.5〜3mm径の針を用い、 点滴用の生理食塩水500mlで関節内を徹底的に洗浄し、その後ステロイドを注入する方法です。 関節内の不純物が取れるのでかなりの効果があり当院では良く行われます。しかしながら、関節洗浄をしたのに、 目安として1ヵ月ももたない膝関節は鏡視下滑膜切除術の適応となります。
滑膜切除術
以上のような処置を行っても、まだ再発を繰り返す状態になれば、炎症で肥厚した滑膜を外科的に取り除く滑膜切除術が選択されます。 滑膜切除術は炎症の場をある程度は取り除きますので、その後の関節破壊の進行を防ぐ効果があります。膝関節では、軟骨の残っている早い時期であれば、 この手術はより効果的です。手術法も関節を切開しないで関節鏡を用いて滑膜を取ることができますので、術後の痛みも軽く、 翌日より膝の曲げ伸ばしができ、また歩くこともできます。
しかしながら完全に滑膜を取り除けない(骨の後ろは隠れて取れない)ことや、 リウマチを治す(炎症の場を少なくする事により、薬を効き易くする可能性?はあるが)手術では無いため、 手術後もリウマチの継続的治療が必要です。またリウマチの活動性が高い場合は、手術後も再発する可能性があり、 骨軟骨に破壊が及んでいる場合腫れが治まっても痛みが残る場合があります。
手術方法
麻酔(全身麻酔または下半身麻酔)下に、関節の中に水を入れて膨らまし、水を連続して流しながら、 5㎜ほどの太さのカメラを関節に入れて、中をのぞきながら、別の穴より同じくらいの太さのシェーバー(滑膜を削ぎ取る、草刈り機みたいなもの) を入れて滑膜を削ぎ取ります。傷は1.5㎝ぐらいが4ケ所できます。手術時間は当院では、1時間以内です。
起こりうる合併症
術後しばらくの間、関節内に血液がたまる事があります。これは手術により滑膜にいっていた細い血管からの出血で、 通常2・3週間で治まります。非常に稀ですが(当院では経験がない!)、手術操作により関節の近くを走行している神経を損傷したり、 引っ張ったりして神経に傷をつけ痺れを起こす事があります。
最後に
鏡視下滑膜切除術は一時期盛んに行われてきましたが、その手術事体リウマチを治す治療法で無いため、再発を起こし、 ほぼ効果が無いとまで言われていた時期もありました。また昨今のリウマチ治療薬の進歩(生物学的製剤)により強力な治療が行われるようになり、 ますます手術の価値が下がるかと思われたましたが、生物学的製剤使用でも、効果不十分例または効果減弱例において、膝に水腫が継続する場合に 鏡視下滑膜切除術により生物学的製剤が効きだした症例が報告されるようになり、滑膜切除の意義が再び論じられる様になってきています。 鏡視下滑膜切除術が効果が無いと言われていたのは、術後のリウマチコントロールが十分できていなかったためで無いでしょうか?