医療のしおり/外科的診療Medical news

変形性膝関節症について
安達 永二朗

はじめに
中年以降の方にみられる膝の痛みの原因のうち、もっとも頻度の高い疾患です。膝が腫れたり、水がたまったり、慢性的な痛みの原因になることから、関節リウマチとの鑑別がしばしば必要となります。
原因
加齢による退行変性を基盤に、加齢による退行変性肥満、生活様式による膝への過度の負担、その他の遺伝的要素などが加わって増悪してくると考えられます。
症状
初期に見られる特徴的な症状は、立ち上がる際や、歩き始めの際の膝の痛みです。やがて、正座ができなくなり、膝がきちんと伸びなくなることがあります。しばしば関節に水がたまることがありますが、関節リウマチと違って、黄〜茶色の透き通った水がたまります(関節リウマチでは黄色で濁っていることが特徴的です)。進行すると、そと股(X脚)がに股(O脚)やそと股(X脚)に変形(多くはがに股で、そと股は少ない)し、外から見てもはっきりとわかるようになります。関節の破壊のされ方は、関節リウマチでは虫に喰われたように小さな穴が無数に開いて壊れていきますが、変形性膝関節症では、すり減っていくように破壊されていきます。
早期発見
普段よくはく靴の底を見てみてください。靴底内側や外側が多くすり減ったりしていませんか?いすに腰掛けたとき、両膝を伸ばして、両足首の内くるぶし同士をつけてみてください。脚は曲がっていませんか?膝の内側に隙間ができていませんか?隙間ができているときは、O脚変形が始まっています。また、何日も膝の痛みが続くときは、体重をかけた状態でレントゲンを撮ってもらうと、膝の関節の隙間が狭くなっていないかどうかがよくわかります。
治療
まずは日常生活の上で膝に負担がかからないようにするための、基礎療法が重要です。和式の生活は、トイレ食卓膝への負担が大きいので洋式の生活に替えることをおすすめします(トイレ、食卓など)。肥満傾向の人はダイエットに努めてください(非常にたいへんなことですが)。
膝を伸ばす大腿四頭筋という太ももの筋肉がありますが、この筋肉を強化することも大切です。病院では消炎鎮痛剤消炎鎮痛剤の内服薬や外用剤(湿布、塗り薬など)などが処方されます。関節の腫れが続くときは漢方薬が効くこともあります。< br> 関節へのステロイド注入は、即効性で、痛みが強い場合や、関節炎が高度の場合には適用になります。頻回に行うのでなければ決して「膝のために良くない」治療ではないと考えます。ヒアルロン酸を関節の中に注射する方法もよく行われます。関節の炎症が強いときや、関節破壊が高度になってしまった場合はあまり効果は期待できませんが、そうでなければ効果的な治療法と考えられます。
いわゆる健康補助食品について患者さんからよく聞かれます。健康食品変形性膝関節症の人に効くといううたい文句の健康補助食品は数多く存在します 。それらがどのようなメカニズムで変形性膝関節症に効くのかは科学的には証明できていません。その中で、グルコサミンについては、その有効性や安全性が、小規模ながら科学的に検証されています。変形性膝関節症による膝の痛みを改善するという報告は多くなされ、関節の破壊を抑制したとの報告もみられます。その有効性は確立したものとまではいえませんが、治療の選択肢として位置づけて良いようです。
装具もよく用いられる治療法です。もっともよく使われているのは様々なタイプのサポーターです。ただし、長時間装着すると、膝の筋肉がやせてきますので、筋力強化の自主トレーニングはきっちりやる必要があります。 O脚変形の初期には、足の裏にウエッジといわれる足底板を入れることも有効です。この足底板は外側が厚く、内側が薄くなっていて、がに股変形による膝の内側への負担を減らすことが目的です。このウエッジは、足底板の他にスリッパのようなタイプ、靴のようなタイプなど様々なバリエーションがあります。変形が高度になってきたり、膝が前後や左右にぐらつくようになってくると、硬性の装具が処方されます。
様々な治療を行ったにもかかわらず、手術治療膝の痛みが良くならない場合には、手術治療が行われることがあります。レントゲン検査では、関節の破壊がまだそれほどひどくないのに、いろいろ治療してもなかなか膝の痛みがよくならないことがあります。その場合には、MRIや関節鏡という膝の内視鏡検査を行うことがあります。これらの検査で、膝の中の半月板という軟骨が傷んでいることが確認された場合、内視鏡でこの半月板を治療すると、膝の痛みがかなり良くなることがあります。内視鏡で行われるため、手術後の入院も1日から数日ですむという利点があります。
O脚やX脚があり、関節破壊が内側か外側に限られている場合は、膝の下の骨を切って、 O脚やX脚を矯正する手術があります(高位脛骨骨切り術)。通常、3ヶ月の治療期間を必要としますが、人工関節置換術に比べて膝がよく曲がり、手術後手術を受けた後でも運動や労働が可能などの利点があります。
関節破壊が高度になってしまった場合は、人工関節置換術が適応になります。人工膝関節置換術は日本で一般的に行われるようになってから、すでに20年以上が経過し、手術成績は安定したものとなっています。年間に人工膝関節置換術が相当数行われている施設で手術を受ければ、結果はほぼ良好なものが得られるはずです。