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関節リウマチとアミロイドーシスについて(詳細)
奥田 恭章

はじめに
関節リウマチ(以下RA)に合併するアミロイドーシスは反応性AAアミロイドーシス(以下AAアミロイドーシス)に分類され、AA蛋白が組織の細胞外に沈着することにより種々の臓器障害を生じる疾患であり、進行症例は多臓器障害を来たすことからその予後は不良である。AAアミロイドーシスは慢性炎症性疾患の経過中に続発する。以前は原疾患として結核などの慢性感染症がもっとも多かったが、日本においては現在、RAをはじめとするリウマチ性疾患が原疾患の9割以上を占める。消化管機能不全や腎不全から種々の合併症を引き起こし死因となることが多く、発症機序と臨床像及び、その診断と治療について解説する。
AAアミロイドーシスと発症機序
AA蛋白は前駆蛋白serum amyloid A(SAA)から形成される。AA蛋白はSAAのN末端側約2/3に相当する。SAAは104個のアミノ酸からなる鋭敏な急性期蛋白でCRPと同じgene familyに属し、急性炎症時に血中に急上昇する1)。SAAには遺伝子多型があり、産生蛋白としてはSAA1、SAA2、SAA4に大別される(SAA3はpseudogene)。SAA1、SAA2は急性炎症時に上昇し急性期SAAと呼ばれており、一方、SAA4はHDLの構造蛋白で急性期にも極軽度の増加を示すのみである。そして、AA蛋白の前駆蛋白となるSAAは、SAA1とSAA2であり、さらに人のアミロイド沈着においてはSAA1に由来するものが優位(90%以上)である。RAをはじめとするリウマチ性疾患ではSAAが高濃度で長期間血中に存在することが多く、このことがアミロイドーシス発症の大きな要因となっている2)。一方、SAAの異化障害やAA沈着の足場となるグリコサミノグリカン(GAG)やAAの周囲に沈着し安定化に関与する物質(serum amyloid P(SAP)、Apo AⅡ、Apo E、など)の動態もアミロイド発症に関与していると考えられる。図1にSAAの産生とAAアミロイドーシス発症機序のシェーマを示す。 SAA1は遺伝子多型からさらに1.1、1.2、1.3、1.4、1.5の5つのアリルに、SAA2は2.1、2.2の2つのアリルに細分化される。このうち、SAA2は遺伝子多型による疾患感受性に差異は認めない。一方、SAA1遺伝子は4つのexonから構成されるが、主な蛋白部分での一塩基多型(SNP)はexon3に存在し、このSNPの相違により遺伝的疾患感受性が生じる。すなわち、SAA1.1はAAアミロイドーシス発症に防御的に働き、SAA1.3は促進的に働く傾向があることが日本人において明らかとなっている3)。また、以前より動物実験でageingがAAアミロイドーシス発症の危険因子である可能性が報告されていたが、最近我々の詳細な疫学研究においてageingが、持続炎症(SAA高値の持続)3)、SAA1 遺伝子多型と並び、発症risk factorであること明らかとなった4)(図2)。
RAに合併するAAアミロイドーシスの頻度と変遷
生検診断によるRAに合併するアミロイドーシスの頻度は10%前後との報告が多いが5)、一方、近年の抗リウマチ剤使用法の変化はアミロイドーシスの合併頻度に変化をもたらしている。当院での1990年から2009年に消化管生検スクリーニングにて診断されたAAアミロイドーシス合併RA353例を5年毎に4群に分けて検討を行ったところ、有意に新規発症頻度の低下が認めら最近は5%台にまで低下を認めている(p=0.0327)(図3)。さらに、アミロイドーシス診断時年齢は有意に高齢化を認めた(p=0.008)(図4)。薬物療法の進歩などが発症頻度と発症までの期間の変化をもたらしたと推測される
臓器症状
1.1 消化管
初発症状となることが多く、RAの経過中に原因不明の難治性下痢や腹部膨満、食欲低下が見られたときは常にアミロイドーシスを疑う必要がある。病態は消化管へのアミロイド蛋白の沈着により、消化管機能低下(蠕動運動低下)及び吸収不良、蛋白漏出を来たし、嘔気、嘔吐、下痢、低蛋白血症を来たす。さらに、全身状態悪化時は麻痺性イレウスや虚血性腸炎を生じる。感染症併発時、手術後、原疾患活動性高度時、関節外症状出現時などに重篤な消化管症状が出現することが多い。
2.腎臓
AAアミロイドーシスにおいて消化器とともにもっとも症状が発現しやすい臓器であり、RAなどの炎症性リウマチ性疾患の経過中に蛋白尿や腎機能低下が認められたときには常にAAアミロイドーシスの可能性を考える必要がある。蛋白尿はネフローゼを来たすものから軽微なものまでさまざまであるが、組織にて糸球体のメサンギウムや基底膜に沈着した場合はより大量のタンパク尿を生じやすく、一方、間質の血管壁有意に沈着する例はタンパク尿が軽微であっても沈着量に比例して腎機能低下が進行する例が多い。

3.循環器
ALアミロイドーシスでは拘束性心筋症を来たしやすく、死因としてもっとも重要であるのに対して、AAアミロイドーシスは心臓への沈着は少量かつ血管周囲に限られることが多く、重篤な心病変を来たすことは少ない。しかし高度の進行症例では、伝導障害や心不全を来すことがある。

4.その他
甲状腺への沈着により甲状腺機能低下症を生じ、副腎への沈着により副腎機能低下を来たすことがあり注意深い観察が必要である。肝臓や脾臓には高率に沈着するがなんらかの臨床症状を来たすのはまれである。

診断
診断は、胃十二指腸、大腸、腎臓、皮下脂肪、小唾液腺などから適切な部位を選択し、生検を行う。これらの生検部位の中で、消化管と腎臓は、AAアミロイドーシスの主な標的臓器であり、感度がもっとも高い部位である。AAアミロイドーシス合併RA患者においては腎にアミロイドに関連したなんらかの症状がある場合は消化管への沈着がすでにほぼ認められる6)。したがってRAにおいては通常の生検診断は侵襲性の点から消化管生検が適しており、腎生検は抗リウマチ剤などによる薬剤性腎障害や他の膠原病の合併による腎障害と鑑別を要する際に行うのがよい。消化管の適した生検部位は、十二指腸がもっとも感度が高い7)。病理診断は生検した組織をコンゴーレッド染色し(橙色に染まる)、偏光顕微鏡下に緑色複屈折性を確認する。AA蛋白の証明は、抗AA抗体による免疫組織染色を行う(図5)。なお、コンゴーレッド染色前に過マンガン酸処理を行い染色性が失うことを確認することがAAタイプの診断に有用と推奨されていたが、現在では、感度及び特異性とも低く、ALアミロイドーシスとの誤診も生じるため行うべきでない。
治療
1.アミロイドーシスの進行を阻止する治療
AAアミロイドーシスの治療は、AA蛋白の前駆物質であるSAAの産生をできるだけ抑えることがもっとも合理的な治療法であると考えられている。SAA値の低下の程度について、Lachmannら2)はAAアミロイドーシス374例の検討においてその生命予後と密接に相関していることを報告しており、そのコントロールはアミロイドーシス治療の最重要項目であることが強調されている。したがって、RAの場合は、関節炎の活動性をできるだけ限り抑制することが重要である。高用量メトトレキサート、プログラフ、DMARDS併用療法などを用い、個々の症例に応じて強力な免疫抑制療法を行う。しかし、これらの免疫抑制療法においても十分な臨床効果が得られない症例も多く存在する。一方、2003年から登場した抗サイトカイン療法は、旧来の治療法に較べて有効性が高く、日本においても日常臨床の場で広く用いられるようになった。抗TNF療法はSAAやCRPなどの炎症マーカーと疾患活動性を強力に抑えるため、AAアミロイドーシスに対する有用性が報告され、その治療効果が示されている17-20)。Gottenbergら7)は、炎症性関節炎に合併したAAアミロイドーシス15例の腎障害に対する抗TNF療法の評価を行い、それぞれ、蛋白尿減少またはGFR上昇;3例、腎障害進行なし;5例、腎機能悪化または進行;7例に認めたとしており、腎障害を認める進行例にも半数以上で有効であったことを報告した。本邦でも論文、学会報告で数多くの有効例の報告がなされている。Kuroda 8)らは、14例(インフルキシマブ4例、エタネルセプト10例)のRA治療が有効なAAアミロイドーシス合併症例での治療成績を解析し、クレアチニンクリアランスの改善4例、不変5例に対して悪化3例、1日尿蛋白定量では、3例で減少、不変6例、悪化3例と約7割で腎障害進行を阻止できていることを示した。また、経時的に上部消化管生検を観察した9例においては、組織の沈着量が有意に減少していることを報告した。Nakamura 9)らは、日本人においてAAアミロイドーシスに対する疾患感受性の高いSAA1.3アリルを有する14例に対してエタネルセプト治療を行い、腎機能の推移を解析した。RA疾患活動性、SAA値、1日尿蛋白の減少、血清アルブミン値の有意の改善を認めた。もっとも多数例での報告として、スペインのFernándes-Nebroら10)により、多施設ケースコントロールスタディの形でAAアミロイドーシス合併リウマチ性疾患の治療成績が報告された。 36症例を対象に評価を行い、腎への反応効果が54.4%、悪化17%であり良好な治療成績であった。しかし、蛋白尿は有意に改善を認めたが(p<0.001)、血清クレアチニン(p=0.783)、クレアチニンクリアランス(p=0.721)の改善に関しては治療前後で有意差は認めなかった。炎症マーカーは有意の改善を認めたが、正常化は達成できなかった。高度の蛋白尿は、治療反応性、継続性、生存のすべに関してリスクファクターであった。副作用の発現率は、コントロール群と差を認めなかったが、敗血症,重症感染症は、3倍の頻度で生じ、死亡は、アミロイド群8例、コントロール群1例であり、安全性の点で感染症リスクの増加が指摘された。以上これらの報告より、抗TNF療法は、AAアミロイドーシス合併のリウマチ性疾患に対して有効な治療法であるが、CKDステージ4及び5の進行例では他の慢性腎疾患と同様に不可逆的である可能性が高く、また多臓器障害を来すこの時期には感染症リスクも高くなることから、より早期の導入及び炎症マーカー低下の確認(原疾患に対する治療反応が良好であること)の上、注意深く治療していることが重要であろう。 ヒト化抗IL-6レセプター抗体(トシリズマブ、以下TCZ)は、そのSAA降下に対する作用機序よりAAアミロイドーシスに対し、現在効果がもっとも優れた薬剤である。SAA産生にはIL-6刺激によるSTAT3活性化が重要であり、SAA産生の正常レベルまでの抑制にはIL-6抑制が必須であり、臨床においても抗IL-6療法は、血中濃度が維持されている症例はほとんどの例でSAAを正常化できる一方、抗TNF療法はSAAを低下させるが、完全に正常化させる症例の比率は高くない。我々は、救命的にTCZにて治験外使用を行い、SAAの完全正常化、消化管、腎症状の消失・正常化、組織よりのAA蛋白の著明な消失を示したJIAを経験し、その臨床経過、有用性を報告した11) (図6)。その後、多くの有用性を示唆する症例報告がなされたが、我々はTCZ治療群(n=22)と抗TNF療法群(n=32)のAAアミロイドーシスに対する臨床効果の直接の比較・検討を行い、TCZ群のより高い臨床的有用性を証明した12)。治療継続率に関しては、TCZ群の1年継続率、5年継続率ともに90.4%であった。中止は2例が早期に脱落し、副作用中止(下部消化管穿孔と下腿蜂巣炎)であった。一方、TNF群の1年継続率は69.0%、5年継続率は34.3%であった。脱落した14例は、一次無効2例、二次無効8例、副作用4例(癌2例、血管炎1例、下部消化管穿孔1例)であった(p=0.0154)。SAA値の推移(μg/dl,中央値)は、TCZ群は、219.2から4.95へと正常値化(8以下)を達成できたのに対して、TNF群は、143.6から38.1と有意に低下は示したが正常値化は達成できなかった(p<0.0001)(図7)。その結果として、eGFR(ml/min./1.73m2、中央値)の変化は、TCZ治療群では、41.6から50.7へと改善したのに対して(72.7%症例が改善)、TNF治療群は76.3から67.4で、改善症例は約1/3(34.4%)であった(p=0.0062)(図8)。当院におけるretrospective studyではあるが、TCZ治療の有意な臨床効果が認められた。 なお、多臓器障害や合併症から十分な免疫抑制剤や抗サイトカイン治療を使えない場合は、中等量のステロイドで加療することになるが、できれば臓器障害が軽微な早期にアミロイドーシスの診断を行い、強力な関節炎と炎症抑制を目指した治療を行ってゆくのが望ましい。また、有機溶媒であるジメチルスフォキサイド(DMSO)は、組織に沈着したアミロイドの溶解度を高めることによりAA蛋白を除去することを目的に時に投与され、有用性を示唆する症例報告は散見される。KIACTA(Eprodisate) は、GAG のmimicでAA蛋白の凝集阻止から治療効果が期待され、欧米を中心に多施設無作為二重盲検プラセボ対照試験が行われ、腎機能の低下リスクが42%低下したと報告された。しかし、末期腎不全進行と死亡リスク減少には有意差は認めなかった13)。現在、再度の国際共同治験中であるが、抗サイトカイン療法への補助的な使用あるいは強力な免疫抑制療法を行えない例への投与・効果が将来期待される。

2.臓器障害に対する補助療法
消化管障害は、重篤なものは難治性下痢、麻痺性イレウス、虚血性腸炎による下血や消化管穿孔をきたすことがある。難治性下痢に対してはIVHにて腸管の安静をはかり、感染に注意しながら中等量ステロイドにて加療を行い、全身及び腸管の炎症を軽減させる。麻痺性イレウスもIVHにて腸管の安静をはかり、低蛋白血症や全身状態の改善を行いながら、消化管機能調整剤や中等量ステロイド剤の投与を行う14)。腎障害例は、高血圧の厳格なコントロール、蛋白質および塩分制限などが基本的に重要である。腎不全進行例は透析療法を必要とするが、この時期にはアミロイドーシスによる多臓器障害を生じているため、心血管障害、消化管障害、感染症などを来すことが多く、予後不良である。したがって、透析の導入は他疾患による腎不全より早期に行う。
おわりに
RAに合併するAAアミロイドーシスは、その頻度は減少しているが、生命予後に影響を及ぼす重要な合併症であり、本疾患を疑わせる消化器症状、腎症状が認められた際は、本疾患を積極的に疑い、上部消化管生検による早期診断を常に心がけていただきたい。そして抗IL-6レセプター抗体を中心とする前駆蛋白SAAを強力に抑制する有効な治療法を早期から導入するように、リウマチ専門医と相談し検討していただきたい。
謝辞
本論文の研究は当院リウマチセンタースタッフ諸氏および自治医科大学臨床検査医学教室山田俊幸先生の協力によるもので、謝意を表する。また、本論文の一部は、厚生労働省アミロイドーシスに関する調査研究班の研究助成を受けて行ったものである。 ・Yamada T.Serum Amyloid A(SAA):a concise review of biology, assay methods and clinical usefulness. Clin Chem Lab Med. 37:381-388, 1999
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