医療のしおり/内科的診療Medical news

リウマチの薬物療法と副作用
奥田 恭章

はじめに
薬は効果だけあり、副作用がないのが理想です。しかし、残念ながら、人それぞれの体質の違いなどにより、 副作用の出やすい人、まったく出ない人がいます。処方する医師のほうもそれぞれの患者さんの条件に合わせてできるだけ効果は大きく、 副作用は少なくするように考えてお薬を出しますが、残念ながら副作用はしばしば出現します。もちろん薬を飲まないにこしたことは ないのですが、残念ながら病気が進行してしまいます(リウマチでは、痛みとともに骨破壊・変形が進み、体が不自由になります)。 それに対応するためには自分の飲んでいる薬について効果・副作用を理解しておくことが大事です。 また、万一、副作用の出たときの対応もよく理解しておきましょう。
自己調整について
基本的には自分の判断で勝手に薬を飲まなかったり、たくさん飲むのは避けるべきです。もし、患者さんが副作用が 怖いからと黙って薬を飲まなかったり、減らしたりしたら、効果が不十分の可能性が高いですから、次回の受診で医師は薬を増やすかもしれません。この時点で自己調節していたことをお話していただければ問題ないのですが、黙っていれば正確な治療効果判定、 診療は成り立たないことになってしまいます。自己調節したいと考えた時は医師に気軽に聞いてください。自己調節が可能な薬なら、医師はOKを出します。また、避けたほうがよい場合はその理由を説明いたします。もし、理由がわからなければ、わかるまで聞くようにしましょう。
副作用が出た時の対応について
高い熱が出る、息苦しいなど重い副作用の可能性がある時は、絶対に次の受診や診察日まで待たずにすぐに主治医に連絡し、相談してください。万一、主治医が不在の時も他の担当医に必ず相談してください。軽い吐き気やかゆみや発疹などで薬を休んだ時は受診時に必ずそのことを伝えましょう。副作用が疑われる場合の自己調節、一時中止はOKです。この場合に実際に症状がその薬の副作用だった場合 は次のような対応になります。薬がよく効いてる場合は、その薬を減量したり、副作用防止の薬を使用して再開することによりうまく治療できる場合が多くあります。また、効果が不十分だったり、副作用の程度が強ければ、他の薬に変更することが多いでしょう。再開、変更等の理由は医師が説明しますが、理解できなければ、わかるまで聞くようにしましょう。また、自分自身の希望や疑問があれば医師に伝え、納得したうえで治療を受けてください。万一、受診後にあらたな疑問ができ、自己調節した場合も次回受診時には必ず医師に伝えてください。以上は基本的な副作用に対する対応の考え方です。つぎに、リウマチで使用する各薬剤の特徴と副作用についてお話します。
NSAIDSについて(=エヌセイズ、消炎鎮痛剤、痛み止め)
関節の痛みに対する鎮痛効果が主体となる薬です。関節破壊の進行を阻止することはできません。NSAIDSには非常に多くの薬が ありますが、ほとんど同じ作用機序のため、原則として1剤のみ使用します。2剤、3剤と併用しても相加効果はほとんど期待できません。一方、 副作用(特に消化管潰瘍や出血性胃炎)は相加的に増加します。2剤使用する時は、経口剤1剤と坐薬が上部消化管への直接粘膜障害を軽減のために 用いられますが、やはり単剤よりは副作用出現率は高いです。副作用は、代表的なものは胃腸障害、腎障害で肝障害や皮疹も認められます。 このうち胃腸障害は、もっとも重要です。NSAIDS服用者は、上部消化管内視鏡を定期的に行うことが勧められます。その理由としてNSAIDS内服中 の患者さんは無症状の潰瘍や出血性胃炎などの上部消化管障害を認めることがしばしばあるからです。
胃腸障害などの副作用を減らすためNSAIDSも少しずつ改良、進歩してきました。
・徐放剤 - 腸でゆっくり溶ける。インテバンSPなど
・プロドラッグ - 吸収されてから、活性型となる。ロキソニン、クリノリルなど
・COX(コックスという酵素)2阻害剤 - 生理的なCOX1を抑えず、炎症の場のCOX2を抑える。セレコックス、モービック、ハイペンなど
低分子DMARDS(ディ-マーズ、免疫調節剤・抑制剤)について
リウマチの関節炎の経過を変え得る(関節破壊の進行を遅らせる可能性がある)薬剤で、リウマチ治療で主役となる薬です。 リウマチは、原因不明ですが、関節での種々の免疫異常が病態を形成しており、そのいずれかの免疫異常に働き、関節炎の進行を抑えると 考えられています。薬剤により作用機序は異なっています。新しい分類では、アザルフィジンENやメトトレキサートなどの 従来からの経口薬の低分子合成DMARDsは、csDMARDs (cs = conventional synthetic)と呼ばれ、新しい、より標的のはっきりした経口剤(分子標的剤ともいわれています)は、tsDMARDs(ts = targeted synthetic)と分類されるようになりました。現在、tsDMARDsとしては、JAKという細胞内酵素を阻害するトファシチニブ(ゼルヤンツ)が使用されるようになりました。他のtsDMARDSは、まだ治験中ですが、近い将来、承認・使用が可能になると思われます。
使い方の実際と特徴
1.一般に遅効性(ゆっくり効いてくる)です。効果がでるまでに1~6カ月かかります(csDMARDs)。一方、tsDMRDsは1週間後くらいより効果が現れることもしばしばあります。
2.レスポンダー(薬が効く人)とノンレスポンダー(薬に反応しない人)がいます。
3.薬剤間で効果や副作用に差が認められ、患者さんの病態に応じて使い分けます。
4.各薬剤で効果がでるまでの期間が異なり、効果、副作用のモニタリングに留意して使用します。
5.何年か使用していると効果の減弱が認められることがあります(エスケープ現象または二次性無効)。
6.NSAIDSと異なり、活動性の高い症例には相加効果を期待して併用療法が行われことが多いです (作用機序や副作用がそれぞれの薬剤で異なるため)。
各csDMARDSの特徴と副作用
1.メトトレキサート=MTX(リウマトレッスク、メトレートなど)
(1)効果発現までの期間:1-2カ月
(2)使用量:2mg(1カプセルまたは1錠)-16mg(8カプセルまたは8錠)/週。 投与法は週1-2回で2-3回に分けて飲むのが原則。
(3)特徴:効果の発現が早く、用量依存性(多い方が効果が高い)の傾向が強い。 強力な抗リウマチ作用から現在もっとも使用されています。他のDMARDとの併用での相加効果も期待できる薬剤です。最近は、活動性の高い方には第一選択として積極的に使用されるようになっています。
(4)副作用:高齢者、腎機能低下した方は副作用がでやすいので用量調節(少量から使用すること)が重要です。 消化器症状(悪心など)、口内炎、脱毛(軽度)、肝機能異常、骨髄抑制(1.白血球減少:免疫力が低下し感染に 罹りやすくなる。または、2.赤血球減少:貧血。または、3.血小板減少:止血機能が低下し、 出血しやすくなる。 高熱が出る、血が止まりにくいなど疑わしい症状があればすぐに受診してください。)、間質性肺炎 (まれだが重篤な副作用になることがあります。アレルギー性に生じるので投与期間や投与量には関係ないとされています。 万一、空咳、息切れ、発熱が生じた時は、ただちに受診あるいは主治医に連絡してください。)、 感染症、催奇形性(出産計画にあたってはMTX中止後、3カ月は妊娠をさけるのが原則です。) 葉酸欠乏によると考えられる副作用(消化器症状、皮膚粘膜症状、骨髄抑制、肝機能異常)の予防として葉酸(フォリアミン) を一部の患者さん(高用量使用者など)で用います。MTX最終内服日の翌々日に5-10mg(1-2錠)のフォリアミンを服用します。 軽度副作用例はフォリアミンの使用(原則としてMTXは継続)、高度副作用例(汎血球減少(白血球、赤血球、血小板がすべて減少) など)はMTX中止、ロイコボリンの注射(活性型葉酸)にて対応します。また、高齢、既存の肺疾患、糖尿病、リンパ球減少などを複数有する患者さんには、ニューモシスチス肺炎予防として抗菌薬少量予防内服(ST合剤;バクタまたはバクトラミン1/2T~1T/日)を行う場合がしばしばあります。また、感染対策として、肺炎球菌ワクチン接種(特に高齢者)、毎年のインフルエンザワクチン接種も推奨しています。

2.ブシラミン(リマチル)
(1)効果発現までの期間:1-4カ月
(2)使用量:50mg-300mg/日
(3)特徴:効果はかなり強く、有効性は比較的高い。使用法は、漸増法(1T⇒2T⇒3T、通常200mg/日まで)で用い、効果が現れた時点で維持量とします。
(4)主な副作用:腎障害(タンパク尿-受診毎に必ず検尿をチェックします。 足がむくみだした、おしっこの泡立ちが目立つ時は早めに受診してください。)、 皮疹、口内炎、味覚障害、骨髄抑制、間質性肺炎(MTXの際と同様の対応をしてください)、yellow-nail症候群(爪が黄色く肥厚する)など

3.サラゾスルファピリジン(アザルフィジンEN)
(1)効果発現までの期間:1-2カ月
(2)使用量:250-1000mg/日
(3)特徴:即効性で、中等度の効果を示します。 他の薬剤に較べ、副作用が少なく、早期の軽症から中等症の方にもっともよい適応となります。 用量依存性(量が多い方が効果でやすい)あり。
(4)主な副作用:皮疹、日光過敏、胃腸症状(腹部不快感)、骨髄抑制(軽度)、肝障害など

4.タクロリムス(プログラフ、タクロリムス)
(1)効果発現までの期間:1-4カ月
(2)使用量:0.5-3.0mg/日
(3)特徴:有効性は高い。効果や副作用が血中濃度にかなり依存するので、それぞれの患者さんに応じて注意深く使用します。また、MTXなどのほかのDMARDSと少量(0.5-2.0mg)を併用し有効性を示す症例が多いのも特徴です。一方、併用禁忌、注意の薬剤も多い(血中濃度に影響されます)ので 注意しながら使用します。グレープフルーツジュースは、血中濃度を上昇させるので、治療中は飲まないようにしましょう。なお、温州ミカン、オレンジジュースは問題ありません。腎機能障害、耐糖能(糖尿病)、膵機能障害(膵炎)、血圧などは定期的にチェックして使用します。
(4)主な副作用:腎機能障害、糖尿病、膵炎、感染症、高血圧など

5.イグラチモド(コルベット、ケアラム)
(1)効果発現までの期間:1-4カ月
(2)使用量:1日1回朝食後に25mg(1錠)内服、4週間以降投与後に、50mg(朝、夕、1錠ずつ内服)に増量する。
(3)特徴:単剤でアザルフィジンと同程度の効果を有し、またメトトレキサートとの併用による相加効果も期待される薬です。
(4)主な副作用:肝障害、消化器症状、特に抗凝固剤ワルファリンとの併用は禁忌となっています(重篤な出血のため)。

6.注射用金製剤(シオゾール)
(1)効果発現までの期間:3-6カ月
(2)使用量:10-25mg ,1回/1-2週
(3)特徴:効果は比較的強く、もっとも歴史のある抗リウマチ剤です。 slow and steady(ゆっくりじわじわと)で効果発現まで、約300mgの蓄積を要します。 最初の数カ月は、毎週筋注をする必要があり、また、遅効性の点から使用頻度は減少傾向にあります。
(4)主な副作用:腎障害(タンパク尿、血尿(リマチルの際と同様の対応をしてください)、皮疹、口内炎、骨髄抑制、間質性肺炎(MTXの際と同様の対応をしてください)

7.D-ペニシラミン(メタルカプターゼ)
(1)効果発現までの期間:3-6カ月
(2)使用量:50-300mg/日
(3)特徴:注射金剤と並び歴史のある抗リウマチ剤で効果は比較的強い。 漸増法(1T⇒2T⇒3T、通常200mg/日まで)で用い、効果の出た時点で維持量とする。 空腹時内服し、ビタミンB6の投与(味覚障害などの副作用予防にて)も同時に行います。
(4)主な副作用:発疹、口内炎、腎障害(タンパク尿-リマチルの際と同様の対応をしてください)、骨髄抑制、味覚障害(金属味、異味症)、他の自己免疫疾患の誘発

8.チオプロニン(チオラ)
(1)効果発現までの期間:1-4カ月
(2)使用量:200-600(2-6錠)mg/日。
(3)特徴:本来、慢性肝疾患や白内障の治療薬ですが、リマチルやメタルカプターゼと似た化学構造を持っており、免疫調節剤としてリウマチにも用いられます。副作用は比較的少なく、有効例も多く経験される薬です。
(4)主な副作用:皮疹、消化器症状、まれに肝障害や白血球減少など

9.レフルノミド(アラバ)
(1)効果発現までの期間:数週間-3カ月
(2)使用量:10-20mg/日、100mg3日間(導入時に使用する場合がある)
(3)特徴:速効性でMTXと同等の効果が期待できるが、半減期が長い(血中に長く残る)ため、 副作用の治りが遅かったり、重篤となることがあるので、肺病変をはじめとする合併症のない患者さんに使用します。 軽度の副作用は用量調節を行い経過を見ますが、 万一、重篤な副作用が生じた時は、クエストラン(早期の体外排泄を促します)を使用します。
(4)主な副作用:間質性肺炎(MTXの際と同様の対応をしてください)、骨髄抑制、感染症、肝障害、高血圧、下痢、高血糖など

10.アザチオプリン(イムラン)
(1)効果発現までの期間:2-4カ月
(2)使用量:25-100mg/日
(3)特徴:免疫抑制剤で効果は期待できるが、副作用のモニタリングは重要です(特に骨髄抑制、肝障害)。 併用薬に注意(原則としてザイロリック(尿酸値を下げる薬)やACE阻害剤(降圧剤の一部)は併用しません)。 また、腎不全は骨髄抑制の危険因子なので注意深く用います。
(4)主な副作用:骨髄抑制、肝障害、発熱など

11.サイクロフォスファミド(エンドキサン)
(1)効果発現までの期間:2-4カ月
(2)使用量:50-100mg/日
(3)特徴:免疫抑制剤で、関節外症状(血管炎や間質性肺炎など)や合併症(アミロイドーシスなど)を併発した時に使用することがあります。朝一回で服用します(出血性膀胱炎予防のため)。
(4)主な副作用:骨髄抑制、感染症、出血性膀胱炎、肝機能障害など

12.トファチニブ(ゼルヤンツ)
(1)効果発現までの期間:7日-3カ月
(2)使用量:1回5mg錠を1日2回経口投与(1日に1錠の場合もあり)。
(3)特徴:サイトカインの受容体の活性化に伴って細胞内のヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素が活性化され、さらにSTATという転写因子が活性化され、活性化されたSTATは二量体を形成し、核内へ移行し、標的遺伝子の転写制御を行うことで、サイトカインの生理活性が発揮されます。JAKの酵素活性を阻害するのがこの薬で、複数のサイトカインシグナル伝達を抑制することにより、リウマチの炎症反応を沈静化することができます。MTXや生物学的製剤が十分に効かない症例に慎重に投与されています。経口薬でありながら、生物学的製剤と同等の効果が期待されますが、帯状疱疹の頻度が高いことや長期の安全性には今後とも検証を続けてゆく必要がある薬剤です。
(4)主な副作用:帯状疱疹、日和見感染、リンパ球減少、心不全、脱髄性疾患など

Biological DMARDS(生物学的製剤)の特徴と副作用
新しい分類ではオリジナルのboDMARDs (bo = biological originator)と、先行品と同等性・同質性が治験で証明され、薬価の低下(基本はオリジナル品の70%)したbsDMARDs (bs = biosimilar)に分類されます。現在は、bsDMARDsはインフリキシマブBSの1剤のみ使用できますが、今後は他剤も治験終了後に承認・発売登場予定です。

1.インフリキシマブ(レミケード = boDMARDs インフリキシマブBS = bsDMARDs )
(1)効果発現までの期間:数日-3カ月
(2)使用量:3mg/kg-10mg/kg,4-8週間毎、1-2時間以上かけて点滴投与。
(3)特徴:キメラ型抗TNFαモノクローナル抗体。MTX6mg/週以上を3ヶ月以上使用しても効果不十分で活動性の高い症例や早期に骨びらん(骨の一部が溶ける)が生じた方にMTXと併用して使用します。もちろん、進行期の活動性の高い方にも使用します。キメラ型(抗体の一部がネズミ由来)のため、レミケードに対する抗体ができにくくするために、MTXとの併用が必要とされています。効果は非常に高く、臨床症状のみでなく、軟骨や骨の破壊の進行を強力に阻止します。しかし、すべての症例で有効というわけではなく、2-3割の一次無効症例(最初から効かない)や二次無効症例(効果の減弱)する方々もいます。 2009年より投与3回目終了以降(6週後以降)から、投与量増量(これまで3mg/kgであったのが段階的に10mg/kgまで可)、及び期間短縮(これまで8週間毎であったのが最短4週間間隔まで可)が認められ、これらの問題点の克服を考慮した治療法が認可されました。有効性の向上(一時無効及び二次無効の減少)がこれにより可能となりました。一方副作用の点からは、時に重篤な副作用を生じることがあるので、結核などの既往(ツベルクリン反応・インターフェロンγ応答反応、胸部CTは必ず行います)、日和見感染症への感染防御能の程度(白血球やリンパ球の数や全身の画像診断、真菌抗原)などをチェックし、使用可能は患者さんを慎重に選び使用します。モニタリング(効果・副作用の有無の経過を見る)は、使用ガイドラインに従って注意深く行います。
(4)主な副作用:投与時反応(点滴中の血圧低下、気分不良や発熱など)、肺炎、蜂巣炎、真菌症など日和見感染、心不全、脱髄性疾患など

2.エタネルセプト(エンブレル)
(1)効果発現までの期間:数日-3カ月
(2)使用量:10,25,50mgを1-2回/週、皮下注射。
(3)特徴:可溶性TNFレセプターで有効性はレミケードとほぼ同等ですが、効果発現はやや遅れる傾向にあります。対象患者もレミケードと同等ですが、 MTXとの併用なしに使用できます。しかし、臨床効果は併用したほうが高いことが多くの臨床研究や日常臨床で示されています。一次無効、二次無効については比較的少ないですが、MTX増量や他の経口DMARDS追加など工夫を加えても効果減弱時には他の製剤への変更を考慮します。投与前検査はレミケードと同様に行い、モニタリングも同様にガイドラインに従って、慎重に行います。外来使用、原則として自己注射を基本とするので、自己注射が可能で、外来通院が可能な患者さんが主な対象となります。
(4)主な副作用:注射部位反応(発赤など)、日和見感染、心不全、脱髄性疾患など

3.アダリムマブ(ヒュミラ)
(1)効果発現までの期間:数日-3ヶ月
(2)使用量:40mgまたは80mg(DMARDs非併用時)を2週間毎に皮下注射。
(3)特徴:ヒト型抗TNFα抗体で、有効性は高く、臨床効果は、レミケードやエンブレルと同等と報告されています。対象患者は、早期から中期で、MTXを十分量(8~16mg/週)使用しても効果不十分な症例に使用することにより高い安定した有効性が得られます。単剤での使用は、特に日本では有効性が得られにくく、他剤に較べ劣ると考えられます。治療前検査、モニタリングは上記の抗TNF製剤と同様に行い、適切な適応患者さんを慎重に選び、ガイドラインに従い注意深く観察してゆきます。高度活動性症例にはMTXとともに最初から使用することも認められていますが、ほとんどはMTX効果不十分例に追加して使用します。
(4)主な副作用:注射部位反応(発赤など)、日和見感染、心不全、脱髄性疾患など

4.トシリズマブ(アクテムラ)
(1)効果発現までの期間:数日-4ヶ月
(2)使用量:8mg/kgを4週間毎に点滴投与。または、162mg皮下注製剤を2週間に1回投与。
(3)特徴:ヒト化抗IL-6レセプター抗体で、単剤で有効性は非常に高く、日常生活動作改善、骨・軟骨破壊の抑制効果が証明されています。有効確率(有効である頻度)は非常に高い生物学製剤で継続率も高く、二次無効が少ないのが特徴です。MTXとの併用でも高い臨床効果を示します。しかし、効果の発現はTNF阻害剤よりやや遅れる傾向にあります。血中濃度が維持されている間は、炎症反応(CRPやSAA、赤沈など)をほぼ完全に正常化させるので、一部の方は、炎症値で点滴の投与間隔を調整することがあります(3-6週で調整)。治療前の検査は TNF製剤と同様に行い、モニタリングも慎重に行いながらガイドラインに従って投与します。炎症反応が上昇しにくいので、感染症を起こした時には診察や画像診断を行い、診断及び治療するのが重要となります。
(4)主な副作用:投与時反応(点滴中の血圧低下、気分不良や発熱など)、肺炎、蜂巣炎、真菌症など日和見感染、高脂血症など

5.アバタセプト(オレンシア)
(1)効果発現までの期間:数日 -4ヶ月
(2)使用量:体重により、①60kg未満:500mg②60kg以上 100kg未満:750mg③100kg以上:1000mg 初回投与後、2週、4週に投与し、以降4週毎に投与(約30分の点滴)。または、125mg皮下注製剤を1週間毎に投与する。
(3)特徴:免疫をつかさどるTリンパ球という細胞(T細胞)のはたらきを抑えることにより、関節炎を引き起こすサイトカイン等の過剰産生を抑制し、効果を発揮する製剤です。他の生物学的製剤に劣らないすぐれた効果が証明されており、これまでの製剤と作用機序が異なることから期待の高い製剤です。単剤、MTXの併用とも十分な効果を出すことが可能ですが、アクテムラと同様に抗TNF製剤と比較してやや効果の発現が遅い症例も時に経験します。症例選択、モニタリングは、ガイドラインに従って、他の生物学的製剤と同様に感染症等発現に気をつけながら、注意深く行います。
(4)主な副作用:肺炎、慢性気管支炎などの悪化、蜂巣炎、真菌症、投与時反応など

6.ゴリムマブ(シンポニー)
(1)効果発現までの期間:数日―3カ月
(2)使用量:MTXとの併用時は、50mgまたは100mgを1回/4週間 皮下注射にて使用。MTX非併用時には100mg皮下注を1回/4週間にて投与します。
(3)特徴:ヒト型抗TNFα抗体だが、半減期が長く、TNF受容体への親和性が高く、自己注射ではなく医療機関で必ず投与を行います。有効性、安全性は高く、他のTNF製剤と同等の効果を発現します。やはり、ガイドラインに従って、患者選択、モニタリングを慎重に行って行きます。
(4)主な副作用:注射部位反応(発赤など)、日和見感染、心不全、脱髄性疾患など

7.セルトリズマブペゴル(シムジア)
(1)効果発現までの期間:数日-3カ月
(2)使用量:最初の3回は200mgシリンジ皮下注を2本(計400mg投与し、その後、200mg皮下注を2週間毎または200mg皮下注2本を4週間毎に投与します。
(3)特徴:ヒト化抗TNFα抗体の抗原結合フラグメントをポリエチレングリコール(PEG)という高分子重合体(これにより炎症部位への集積、作用の持続が期待される)と結合させた化合物で、投与初期にローディング(投与量を増やし血中濃度を上げる)を行うので早期に有効性を示すことが期待される製剤です。有効性の点からは、12週で治療継続の判定を行えるのが特徴です。患者選択とモニタリングは、他の抗TNF製剤と同様に慎重に行って行きます。ヒュミラと同様にシムジアも、高度活動性症例にはMTXとともに最初から使用することも認められていますが、ほとんどはMTX効果不十分例に追加して使用します。
(4)主な副作用:注射部位反応(発赤など)、日和見感染、心不全、脱髄性疾患など

ステロイドについて
1.使用の実際と考え方
(1)原則としてDMARDSが効果をあらわすまでのbridge therapy(つなぎ治療)または、効果不十分の場合の補助療法です。 プレドニン、リンデロン、メドロール、ソルコーテフなど種々の合成ステロイド剤がありますが、 効果、副作用、使いやすさの点から、リウマチにおいては作用時間が中間のプレドニン、メドロール(経静脈投与ではソルメドロール) が主に用いられます。
(2)内服投与: 用量を調節しやすい点、効果、副作用のバランスからプレドニンが大部分の患者さんに用いられます。 少量内服投与(5mg/日以下)を活動性の高い症例に用います。 コントロールが良好になれば、ゆっくりと減量していきます。 関節外症状(間質性肺炎や血管炎)や合併症(アミロイドーシスによる臓器障害)には 大量(60ー40mg/日)から中等量(30mg-20mg/日)の投与を行いますが、効果が得られれば漸減し、維持量に減量します。 この場合、関節外症状や合併症の状態により維持量は異なります。
(3)関節内投与: ステロイドを関節内に注射する治療法で、腫れと痛みをとるのに非常に効果的です。 特定の関節の強い痛みによる不眠(肩など)や日常生活動作の低下、大量の関節水腫(膝など)の時に主に用います。 指の小関節の変形予防にも使用します(未変形例では効果が非常に長期に持続することがしばしばあります)。 関節周囲では、屈筋腱腱鞘炎(バネ指)や上腕二頭筋腱炎(肩前方の強い痛み)に対して腱鞘内に注射します。 原則は、月1回まで、同一関節には1カ月は間隔を開けます。 しかし、病状により頻回に行なわれる場合もあり、その場合はDMARDSの変更検討、滑膜切除手術の検討、 内服ステロイド増量のいずれかを考慮しなければなりません。
(4)血管内投与:全身に及ぶ強い関節炎(腫脹)で発熱、日常生活動作の低下、不眠等を生じている例に投与することがあります(ミニパルス療法:1-3日間、ソルメドロール125mgの投与が多い)。関節外症状の血管炎や間質性肺炎やアミロイドーシスの難治性下痢にも大量投与を行うことがあります (パルス療法:2-3日、ソルメドロール1000mgまたはリンデロン100mg)。 また、感染症などで全身状態が悪化し、輸液療法を行っている患者さんで 経口ステロイドを内服していた場合には点滴中または静注のステロイド投与を必ず行います (この場合、経口量よりも多めに投与しますーストレスによる需要の増加と反応性低下のため)。

2.ステロイドの副作用について
(1)骨粗鬆症
リウマチによる炎症、運動量低下、閉経後の女性(エストロゲン低下)と併せてステロイド内服は骨粗鬆症の危険因子となります。進行すると腰椎圧迫骨折、転倒による大腿骨頚部骨折を生じやすくなります。
(2)診断
骨密度測定:DEXA(デキサという骨密度測定装置)にて測定します。 腰椎や大腿骨頸部の値が、若者正常者に対して80%未満は骨折の危険性があり、治療対象となります。 P1NP,TRACP5b,BAP,DPD,NTXなどの骨代謝マーカー(検尿や採血で測定)から、骨粗鬆症のタイプを決め、それに応じた治療を行います。 骨形成低下(骨の作りが遅い)と骨吸収亢進(骨が早く溶ける)を評価します。
(3)治療
ビスフォスフォネート製剤(フォサマック、ボナロン、ミノドロン酸、ボンビバ等)、PTH製剤(テリパラチドーフォルテオ、テリボン)、デノスマブ(プラリア)、SERM(エビスタ、ビビアント)、ビタミンD3製剤、Ca製剤等から病態に応じて使用します。
(4)ステロイド誘発糖尿病
中等量以上飲んでいる患者さんでは、しばしば食後高血糖になります。定期的に血糖測定を行い、高血糖時には糖尿病の治療を行います。ステロイド減量により改善します。
(5)満月様顔貌、中心性肥満
中等量以上飲んでいる患者さんで生じます。満月様顔貌はステロイドを減量するともとの顔にもどります。
(6)高脂血症
ステロイド内服中は過食になりやすいので体重コントロールに注意しましょう。
(7)感染症
中等量以上の内服は免疫力が低下しやすいので、うがい、手洗いをしっかり行い、感染症が流行っている時期は外出時はマスクをつけましょう。感染症が疑われる症状があれば、すぐに受診または主治医に連絡しましょう。
(8)皮膚の脆弱化
長期間の服用により、皮膚が薄くなったり、皮下出血を起こしやすくなります。

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