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リウマチのリハビリテーション(内科サイドからのアプローチ)  高杉 潔

内科サイドのリウマチ医にとって、「リハビリテーション」(以後略して「リハビリ」と呼ぶことにする)」という言葉はややもすると疎遠なものに響き、とかく敬遠してしまいがちなものである。ましてや、これを診療の場において実際にリウマチ患者を拝診しつつ実践していこうと試みている内科医は殆ど存在しないと言っても過言ではあるまい。

その要因の一つは、本邦の内科サイドのリウマチ医が全身の関節に手を触れて その病態を把握し各関節の機能を総合的に評価する能力に欠けているからである。関節の機能障害がチェック出来なければその患者のリハビリ施行 に必要な精細で具体的な処方箋を発行することは全く不可能で、すべてを(我が国のリウマチのリハビリに決して精通しているとは言い難い) PTやOTに『リウマチの方です。リハビリをよろしく』という一枚のおざなりな処方内容で一方的に押しつけてしまうという、 いつもの構図が出来上がるわけである。  (もう一つは、リハビリ専門医がリウマチのリハビリに関して、われわれリウマチ内科医にとっていささか高踏的で具体的な 方策に欠けた可成り難しいことを言い過ぎてきているために、リハビリに取り組む意欲が正直言ってなかなか湧いてこないという側面も確かにある。)

それでは、リウマチのリハビリとは一体何であろうか?  それは障害され、失われつつある『罹患関節の機能を取り戻し、これを維持して行く』ことに他ならない。 そして、われわれは診療の場においてとかく患者さんの関節腫脹の有無やその可動域 (ROM)制限のみに注意を奪われがちであるが、 その関節を動かしているのは『筋肉』であるという重要な事実をいつも肝に銘じておくべきである。 リウマチ発病初期の治療を受け持つ機会が比較的多いリウマチ内科医は、リウマチ後期の「関節変形」に随伴する機能障害の対応に苦慮する前に、 発病してまだ間のない眼前の患者さんが、その関節を傷害することなくしてその機能を維持していく事の出来る 「筋肉機能」の強化訓練の実際の方法を診察しつつ、教示していくべきである。 その具体的な方策は何かと言えば、 当該筋肉の「ストレッチ」と「等尺性収縮運動(Isoーmetric exercise)」という先生方お馴染みの2つの方法であって、 決して難しいものではない。いずれも実際に診察しながら教示・施行していけるものなので、診察行為がそのままリハビリに 直結しているといえるものである。

各関節毎の説明

以下各関節毎にその要点を列記してみたい。

頚椎

触診で後頸部の筋肉が脆弱であると察知でき、 頸椎の不安定性が目立つときは後頭部を壁(座時)や床(臥床時)に押しつける運動を教える。 なお、頚椎のストレッチをRAでは「完全禁忌」と決めつけている向きがあるが、実態はさにあらずで、 頚椎のレ線写真を精細にチェックして甚だしい垂直亜脱臼(vertical subluxation)などの存在していない例で、 慎重なストレッチを試みることにより頑固な頸部痛の消失してくることを、しばしば経験してきている。

顎関節

此の部の痛みのために時々開口制限を認めてくる。顎関節の力を抜いた状態で可及的に開口位をとらせながら左右への運動を能動的に、また時には受動的に試みる。また、関節周囲の丁寧な触診を試みると痛みが咬筋由来であると判明することもあり、これは同筋のマッサージでその運動制限が大いに改善してくるので心しておきたい点である。

肩関節

肘関節を90゜屈曲位に保ちながら水平方向に「内旋」運動を試みて、肩の運動に拘わっている総ての筋肉のストレッチを行う。 そして外転運動は極力避けるよう指導することが大切である。  また、三角筋の強化のため、 肩を屈曲位90゜で保持しつつ手先にて小さな円孤を描く、いわゆる"Curling-exercise"を教えておくことは、上肢全体の機能改善に役立つ

肘関節

屈曲拘縮のきわめて生じやすい関節なので、伸展位を可及的に取らせるとともに、上腕を体側に固定しての前腕の回外位運動(円回内筋のストレッチ)を試みる。

手関節

尺骨遠位端にてしばしば三角軟骨複合体の嵌頓・癒着を思わせる所見があり、 これは手関節全体のストレッチで消失していくことが多く、ROMの好転につながっている。 なお、尺側への偏位・脱臼を予防するためにも積極的な装具着用を奨めている。

手指関節

非利手側も使用していくように指導することが大切である。忘れてならないことは掌側屈筋腱の腱鞘炎の存在であろう。  これは朝のこわばりの大きな原因であって、罹患指の伸展障害のためPIP関節の屈曲拘縮を特に認めやすくなってくる。 MP関節での過度の受動的伸展運動による癒着剥離術(とても痛い!)が有効であって、 手指全体の頻回の屈曲運動でこれを矯正することは不可能である。なお、上肢全般の筋力増強のために、 太極拳に似た「上肢全体固定位」での等尺性収縮運動も指導している。紐や自転車の古チューブで輪を作り、 左右の上肢で抵抗運動をさせることはいずれかの関節に過重負担をかけることになるので、推奨しかねる方法である。

股関節

側臥位にて下肢全体を伸展し、僅かに挙上位をとって保持する(中殿筋の強化)運動はお奨めである。また、次の膝伸筋群の等尺性運動を試みるときに、あわせて「排便を我慢する」動作である肛門挙筋の収縮(挙上)運動を行わせることは殿筋群の強化につながるものであろう。

膝関節

大腿四頭筋の強化とHamstring(膝屈筋群)の拘縮予防が最大の眼目である。前者の等尺性運動はsetting exerciseと呼ばれて お馴染みのものであるが、診察時に必ず膝に手を添えてこれを指導していきたい。後者の筋群の拘縮はしばしば見逃されるか、 または全く注意を払われてきていないが、患者を臥床位の膝関節90゜屈曲位にしておいて、 その下腿を検者が抱え込むようにして真っ直ぐ引き出す動作を試みると、案外簡単にその拘縮が改善して直に 良好な歩容を認めるようになる。

足関節と足趾関節

罹患足関節はやはり装具を用いての固定が最優先されよう。既製の足底板や中足部保持のmetatarsal barも積極的に使用したい。 足関節の内反、外反変形予防のため足底にwedgeを付けることも推奨される。

患者への教育

  • 過度な関節使用は炎症を激化させることをしっかり教える。
    非利き手側の積極的な使用を奨めること。
  • 関節変形を助長する一連の動作を指摘しておく。
    (例、手関節の尺側変位をきたす水道栓やドア把手を廻す運動など)
  • 変形予防ないし矯正のための装具使用の試み。
    (例、頸椎用のカラー、足関節用のブレース装着など) 特に足趾変形予防のための靴の作成、補装具の使用は大切である。
  • リーチャーや歩行時の杖使用も奨励する(転ばぬ先の杖)。
  • 家庭における筋力維持・増強運動を続行していくための動機付けをすること。特に、肩の関節拘縮と膝の大腿四頭筋の萎縮が頻発し易いので、両関節を動かしている筋肉のリハビリを入念に施行するようしっかりと説得する。

これまで述べてきたことは、患者の関節に直接手を触れ、その炎症像を把握するとともにその機能の評価が出来なければ、いずれも実行不可能なことである。関節触診法に習熟し、各患者における具体的な問題点が掴めてくれば、それを列記していくことが即、『リハビリの処方』につながってくるというものである。リウマチのリハビリがお題目だけの、絵に描いた餅に終わらないためにも、リウマチ内科医の研鑽が望まれる所以である。