外科的診療

人工関節の手術時期について  安達 永二朗

関節の破壊が進行して、痛みや可動域制限(関節の動く範囲が狭くなること)などがでてくると、 人工関節置換術の適応も考慮されるようになります。では、どの時期に手術を受けるべきかを決めることは、 患者さんにとってはとても難しいことです。この項では、人工関節置換術がよい治療成績を得るために (せっかく手術を受けたのに満足のいく手術結果が得られなかった、ということのないように)、 どの時期までに手術を受けるべきかをお話ししたいと思います。

私たちリウマチ医が、人工関節置換術の手術時期を考慮する場合に、二つの大きな要素があります。 一つめの要素は理学所見(患者さんの関節を診察して、関節の動きや、安定性、変形などを診ること)です。これは、手術を行った後、 良好な関節機能に回復できるための所見です。例えば膝などでは、あまり曲がらなくなってから手術したのでは、手術後も膝の曲がりが不十分なため、 患者さんの満足度も当然低くなります。私どもにしてみれば「なんでもっと早く手術を受けなかったの?」 ということになってしまいます。二つめの要素はレントゲン検査です。これは、人工関節を長持ちさせるために、骨の状態がいいうちに手術をするための検査です。 人工関節は骨に打ち付けて固定します。人工関節には長年にわたって強い力が加わり続けるので、 人工関節を固定する部分の骨の状態が悪いと、 早くゆるみが起こってしまうと考えられます。

それでは、当院で主に行われている膝、股関節、肘の人工関節のについてその手術時期を述べていきましょう。

膝関節

日常生活を大きな支障なく送るためには、膝がきちんと伸びること、100°以上曲がること(直角より少し余分に曲がる)、 ぐらつかずしっかりと安定していることが求められます。 膝の場合、手術によって伸びない膝を伸びるようにすることはある程度可能ですが、 曲がらない膝を曲がるようにすることは出来ません。100°ぐらいしか曲がらないようになったら、 レントゲン検査を受けてみましょう。このとき、関節の破壊が軽度であれば、リハビリを行って経過をみることとし、 関節破壊が高度であればもう手術時期と考えられます。 伸びに関しても、20°以上の伸展制限がでているようであれば、同様のことが言えます。 また、膝を伸ばした状態で膝が左右にぐらつくときは、関節がゆるくなっていると考えられますので、 少し早めに手術を受けるべきと考えます。さらに、O脚やX脚にも注意が必要です。

O脚は手術によって矯正しやすいのですが、X脚が進行すると、人工膝関節手術は難しくなり、 手術後の経過が良くないことがしばしばあります。ご自身で膝を伸ばしてみて、 明らかに外に曲がっているときには早めに手術を考慮された方がよいでしょう。

さて、レントゲン上での手術時期についてお話しします。建物を建てる場合、 その地盤の状態はとても大切です。地盤の状態が悪いと、地震などで力が加わった際、 建物が傾いてしまいます。人工関節置換術の場合、地盤に相当するのが関節の骨なのです。 骨の上に家を建てるとしましょう。

図1のAのように地盤が良好な場合は問題ありません。 B,Cのように地盤が(骨が)一部欠けている場合は、Bのように小さな家で我慢するか、 Cのように何かで地盤を足して家を建てなければなりません。

図1

図2のように黄色い線のところで骨の表面を切ったとき、 この患者さんではほぼ良好な地盤が現れます。図3の患者さんでは適切な地盤がありませんので、適切な手術時期は逸してしまっていると考えられます。

図2

図3

股関節

股関節は、関節の動きが悪くなっても日常生活に大きな支障は及ぼさないのですが、 靴下をはいたり、足指のツメを切るためには100°以上の屈曲が出来ることが必要になります。 股関節は手術しても関節の動きはあまり良くなりませんので、 自分で靴下がはけるうちに手術した方がよいでしょう。 股関節の手術時期は、その決め手は主にレントゲン検査となります。 股関節は、急速に関節破壊が進む方もしばしばおられますので、特に注意が必要です。図4を見てください。 骨頭といわれる丸い骨は、かなりひどく潰れていても手術は大丈夫です(左右の足の長さはそろえられない可能性はありますが)。 体重を支える黄色い線で囲んだ部分の骨の状態と、臼底(矢印にはさまれた部分) の骨の厚みが重要になります。図4の左側の関節は、臼底が少し薄くなっていますが、 手術時期としては適切と考えられます。

図4

図5の患者さんでは、臼底の骨が消失していますので、適切な手術時期は逸してしまっています。 繰り返しになりますが、股関節は、自覚症状や診察だけでは骨の状態が判断しにくいので、 レントゲン検査はとても重要です。

図5

人工肘関節置換術

肘に関しては、骨の状態がよいうちに、ヒンジ(関節同士のちょうつがい)のないタイプの 人工関節を入れることが理想と、私たちは考えます。 このヒンジのないタイプの人工関節は、手術によってよく曲がるようになります (顔に届かなかった肘でも楽に届くようになります)。

ただし、伸びはよくならないので、30°くらいの伸展制限の頃までには、手術をした方が、 手術後に肘の伸びが悪くて困るということはないようです。 このヒンジのないタイプの人工関節は、 関節に人工関節を支えるための骨が残っていることが、条件になります。 図6の矢印の部分(上腕骨)、図7の矢印の部分(尺骨)が目安となります。 図8のように薄くなってしまっているような関節には、 ヒンジの着いているタイプの人工関節が適応になります。

図6

図7

図8

人工関節と手術時年齢

人工関節は高齢者に行われることが一般的です。年齢の若い人に行うと、 将来人工関節がゆるんできたときに手が施せないようになる可能性があるためです。 しかしながら、関節リウマチの患者さんに対しては、関節の機能や骨の状態を見極めて、 たとえ若年であっても手遅れになることなく、 人工関節手術を行うべきだとの考え方が有力になってきています。

手術適応を決める際のレントゲン所見の判読は、非常に専門的な知識が要求されます。 リウマチ患者さんの人工関節手術の経験豊富な医師にコンサルトされることをお勧めします。