内科的診療

薬でコントロールする  高杉 潔

リウマチに付き物とも言える「痛み」については、既に前の章で詳しく触れられていますように、この病気の時期(早期か後期か)についてよく考慮しておく必要があります。

リウマチ発病の初期 関節滑膜(関節を包み込んでいる軟らかい袋)の炎症に誘発された痛みが主です
リウマチ発病の後期 関節破壊・変形に起因する機械的な痛み(軟骨の消失に伴う骨と骨のこすりあわせによる痛みや、変形に伴う筋肉や靱帯の運動時における過伸展などによる痛みなど)がこれに加わってきて、痛みがより複合的になってきます

「非ステロイド性消炎鎮痛剤」の役割

従来からアスピリンに代表されてきているいわゆる『痛み止め薬( )』は、一般的に「非ステロイド性消炎鎮痛剤」と呼ばれてきていますが、ここでは以後これを「非ス剤」と省略して呼ぶこととします。

非ス剤」の作用機序 リウマチなどの炎症の場における重要な化学伝達物質の一つであるプロスタグランディン類(以下PGsと略します)の生合成に拘わっている酵素の働きの阻害(PGsが出来てこないようにする)です。
PGsの作用
  • このPGs自体では疼痛を生じてきません。
  • PGsが「ヒスタミン」とか「ブラディキニン」という化学物質へさらに働きかけることによって痛みを生じてくることが知られています。
  • さらにPGsには痛みを感じるレセプター(受容体)の閾値を下げてくる(痛みをより感じやすくなる)作用のあることも知られています。
PGsの生合成 PGsは、すべての細胞の膜の上にあるアラキドン酸という物質が、シクロオキシゲナーゼ(略してCOXと以後呼びます)という酵素によって代謝されて出来てきます。この酵素にはCOX1とCOX2という2種類のものがあることが解ってきました。
COX1 COX1は胃粘膜や腎臓、血小板などに存在していています。
胃粘膜の酸に対する防御、腎血流量の維持といったヒトが生きていくために必要なハウスキーパー的な仕事をしています。
COX2 COX2は炎症刺激などに誘発されて炎症局所に出来てきます。
リウマチ炎症を起こしている関節局所などがこれに当たります。
非ス剤」の副作用 従来からリウマチの治療に使用されてきている非ス剤は、この炎症局所にあるCOX2のみならず、COX1も無選択的に抑制してくるために、胃潰瘍とか浮腫といった好ましくない副作用を生じてきます。
プロドラッグ 薬剤投与時に胃を素通りして、消化管から吸収された後に肝臓で代謝(分解)されて初めてその効力が出てくるものです。
活性型の薬物が胃壁に直接触れないので、胃障害が少なくてすむとされていて、これらを長期間服用されて来ている方も多いことでしょう。
坐剤 吸収が早く急速な鎮痛効果が期待できるとあって汎用されてきていますが、たとえ使用薬剤が直接に胃腸を通らないからといっても、その吸収後には体内の血液循環によって胃壁局所には必ず到達するのですから、決して安全とは申せません。なるべく頓用使用が好ましいとされる所以です。
COX2選択性非ス剤 「炎症局所のCOX2のみを抑える薬は作れないものか?」と、どなたでも考えられることでしょうが、実はこれが夢で無くなりつつあります。「炎症の場に出現してきたCOX2のみを特異的に抑える一方で、胃腸には障らない薬」として、すでに米国ではセレブレックス、バイオックス、バルトレックスなどといった商品名のものが一般臨床の場で使用されてきていて、その処方件数は増加の一途だと報じられています。これまでの使用報告では、腎臓機能に対する一抹の不安は残されていますが、消化管障害は確かに軽減してきているようで、この線の新薬開発はますます盛んになってきていますが、これらのいずれも未だ我が国では開発途上にあり、皆さん方のお手許に届くにはあと数年はかかりそうですね。ただ、COX2選択性の比較的高い薬として表1に示してあるようなものが使用可能です。

余談ですが、皆様方の余りお好きでないステロイドは典型的なCOX2阻害剤であって、この薬剤の持つ数々の抗炎症作用の内でもこれは際だった作用の一つなのですが、飽くまでこれは炎症を一時的に抑制するだけの対症療法であってリウマチの治癒につながるものではなく、あまつさえ、同薬の大量長期使用では種々の好ましくない副作用を来してしまうことはよくご承知の通りです。 
今まで述べてきた各非ス剤の効力には多少の差こそあれ、その作用機序は皆同じものですので、これを2剤、3剤と重ねて使用することは副作用の増加にこそつながれ、効力の増強には至りません。また、新しい非ス剤の使用を開始されるさいには、数日間服用しただけで「効かない」と放置するのではなく、おおよそ2週間はねばってみてください。それでもはかばかしくないようでしたら、そこで初めて担当医にその旨申し出るようにして、各自の病状に合わせた非ス剤に行き当たるまで頑張ってみては如何でしょう。但し、これらの薬剤はあくまで疼痛緩和を目的とする対処療法であることを、いつも念頭において頂きたいと思います。

<抗リウマチ剤の役割>

非ス剤のみではRAのコントロールはまず困難であるため、通常は表 2に示してある疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDsと以後省略)と併用していくのが大原則です。発病当初の、関節炎症が激しく疼痛の甚だしい時期には非ス剤使用は必須のものですが、経過と共にDMARDsの効果が出てきて、炎症も軽減し関節痛も次第に収まってくるようになると、非ス剤を可能な限り減量し、使用回数も極力落としていきながら、ついには中止の線まで持っていくように努力されるべきです。治療サイドも、患者さんの経過をよく把握して、これを減ずるようにいつも心掛けるべきなのですが、ときに坐剤の処方がただ漫然といつまでもなされていて、首を傾げたくなることがあるのも紛れもない事実です。 
DMARDsには直接的な抗炎症作用はないので鎮痛消炎の作用もないのですが、RAの免疫異常を修飾することによって、その炎症をコントロールしていくものなのです。その抗リウマチ効果が出てくるまでには一般的に数カ月を要する遅効性のものなので、その間の非ス剤の連続投与はまず必須のものとなりましょう。
DMARDsの開発も盛んになされてきており、「抗サイトカイン療法」(サイトカインとは色々な細胞から分泌される生理活性物質のことです)と一括されてきている生物学的製剤の一部も本邦における使用がようやく開始されようとしています。リウマチ炎症におけるサイトカインの中でもその親分株と目されている腫瘍壊死因子(TNF-α)を抑制するもの(表2中のレミケイドやエンブレルがこれに当たります)を使用すると、腫脹・疼痛関節数の激減やCRP陰性化がすぐさま観察されてくると報告されており、その極めて迅速な抗炎症作用が目立っています。「まったく非ス剤の出る幕がない!」状態に立ち至るわけです。しかし、これらの投与(皮下注ないし静脈内投与です)を中断すると、リウマチ炎症はすぐ再燃してきますから、残念ながら、これらとて対症療法の域を出ないものであることも明らかです。

大多数の方は今まで述べてきたような薬剤の投与法で、関節の痛みを何とかコントロールされてきていますが、外来患者さんのうちの数%くらいの方は、「何を使っても痛みが上手くコントロール出来ない」と言われます。関節局所の炎症がとてもひどくて、将来的にはいわゆる「離断型(ムチランス)」に進行されていくタイプの方にこの現象は多く見かけられるというのが小生の印象ですが、しっかりとお話をしたうえでステロイドの少量~中等量併用に踏み切らざるを得ないこともままあります。
また、後期の骨・関節破壊が進行した段階において皆さんが経験なさる痛みは、この文の当初にも触れましたように、より複合的なものとなってきていて、薬剤使用のみではその対応は不可能です。リウマチ病勢の進行につれて関節軟骨の損傷、菲薄化が進捗して関節の変形が始まり、ついには関節骨端面における軟骨消失→関節裂隙(すきま)の消失にいたり、従来からの「リウマチ炎症にともなう痛み」に「機械的な痛み」が加わって出現してくるようになります。これには変形にともなう「関節靭帯の過重な伸展負荷」や「局所の圧迫」といった他の機械的な疼痛も加わって状態は複雑化する一方でしょう。
こういった機械的な疼痛には非ス剤の効力は期待できません。変形や荷重のかかりかたを矯正すべく、積極的な「装具や自助具の使用」がもっとも推奨されます。また、病気の時期によっては、次章で述べられている関節形成術や人工関節置換術も考慮されるべきでしょう。
何度も述べてきましたように、リウマチという病気の時期に応じての賢い対応をなさるように、念じています。

高杉 潔(日本リウマチ友の会誌「流」No.227より転載)

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