外科的診療

関節の障害(膝関節を中心に)  近藤 泰紘

はじめに

膝関節はヒトの体の中では最も大きな関節で股関節と足関節の中間にあり、曲げ伸ばしの広い範囲の動き、さらには歩くときにはしっかりと体重などを支える機能をもっています。膝関節に障害が起きると、これらの機能が低下し、日常生活に支障をきたすことになります。リウマチは、体の中の至る所の関節を炎症の標的にする可能性がありますが、なかでも膝関節はその標的になりやすく、発症時から膝が腫れていたという方が多いようです。そこで膝関節を中心に、関節の仕組み、リウマチの炎症の過程、治療などについて話を進めていきます。

関節の仕組み

関節は骨と骨を連結し滑らかに動く仕組みになっています。正常な関節では、骨と骨(膝関節では、大腿骨と下腿骨)との連結部は直接骨同士が接触してなくて、その接触面は軟骨が覆っていて軟骨面で互いに対面しています。そしてその対面している軟骨の間には潤滑剤として粘液状の滑液(関節液)があり、関節の滑らかな運動ができるようになっています。運動時の関節の摩擦は非常に少ないとされ、例えば氷の面でその上に氷を滑らせる状態と同じ程度のものといわれています。この潤滑のための滑液を造るのが関節を包んでいる滑膜という薄い膜です。この滑膜には、主に二種類の細胞群が並んでいて、一つは滑液を造る細胞群であり、もう一つは排物処理を行う食細胞群で、この二つの細胞群の機能により、関節内は絶えず新しい滑液に入れ替わり、良好な潤滑の状態が保たれています。さらには、滑液は軟骨への栄養を補給するという大きな役目をしています。軟骨には血管がありません。他の大部分の組織は血液で栄養を受けて生きていますが、軟骨は滑液が軟骨の中に染み込むことによって栄養を受けているのです。まとめると、滑膜は関節の潤滑と軟骨の栄養という二つの大きな役目を持っているということです。これらの仕組みにより関節は滑らかで滑りのいい動きをしてくれています。

リウマチの関節障害

リウマチによる炎症の場は、「滑膜」であり、滑膜炎から、軟骨、骨へと影響が及んでいくことを特徴とします。 この炎症の引き金になる原因、つまりリウマチの原因は未だに究明できていませんが、進行していく仕組みにつてはかなり解明されてきています。 何らかの原因で、滑膜に炎症が始まると、薄い滑膜は肥厚し腫れてきます(図2)。これは炎症細胞群と共に滑膜細胞群増殖していくためです。そしてこれらの細胞群は炎症性の浸出液を排出します。これが膝関節では水が溜まる、という現象です。この浸出液の中には関節の軟骨を溶かそうとする有害物質が含まれています。滑膜炎が続いている状態では、軟骨は有害物質を含んだ炎症性の浸出液から栄養を受けることになり、次第に弱っていき、運動時の摩擦も加わり消失していきます。 軟骨が消失して骨面が露出すると、増殖した滑膜組織が骨の中に進入し、滑膜細胞から放出される物質で骨が吸収され、骨破壊が進んでいきます。

関節炎(滑膜炎)の処置

リウマチによる関節炎が続くと抗リウマチ剤などの薬物療法で何とか炎症を抑えようとします。しかし薬物療法で効果が限られるときは、局所療法を行います。 これを膝についていえば、早期で水腫(水が溜まり状態)が続く場合、注射器で水を抜き、ステロイドを注入します。このことについて、水を抜くと癖になるから抜かないほうがいい、 そのままにしておいた方がいい・・・という風評(?)もあります。 しかし炎症による浸出液(いわゆる水)のなかには軟骨などを溶かす有害物質が含まれておりますので、水の溜まったままにして我慢しないほうが良いと思います。ステロイドの注入で 滑膜炎はかなり改善しますし、その後の進行も抑えられますが、一方ではステロイドによる軟骨などを弱くする副作用もありますので頻回には使用できません。 炎症が長く続いたり、その程度が強いと、関節内に炎症産物など固形物が溜まり、通常の注射針では抜けにくくなり、ステロイドを注入しても再発を繰り返すことがあります。 この場合は固形物を洗い出すために、太目の特別な針で関節洗浄を行う方法があります。局所麻酔を行い、2.5~3mm径の針を用い、点滴用の生理食塩水500mlで関節内を徹底的に洗浄し、 その後ステロイドを注入する方法です。関節内の不純物が取れるのでかなりの効果があり入院中の患者さんには良く行われます。

滑膜切除術

以上のような処置を行っても、まだ再発を繰り返す状態になれば、炎症で肥厚した滑膜を外科的に取り除く滑膜切除術が選択されます。滑膜切除術は炎症の場を取り除きますので、その後の関節破壊の進行を防ぐ効果があります。膝関節では、軟骨の残っている早い時期であれば、この手術はより効果的です。手術法も関節を切開しないで関節鏡を用いて滑膜を取ることができますので、術後の痛みも軽く、翌日より歩くことができます。

人工関節置換術

薬物療法、局所の処置などの努力を続けていても、関節炎が進行し、関節破壊、変形にいたる患者さんが少なくありません。 関節破壊で失われた関節機能を再建するために、いろいろな関節手術がありますが、膝関節では人工関節置換術が一般的に行われるようになっています。 それは人工関節の手術によって歩けない人が歩くことができるようになり、動きも楽になり、日常動作が著しく改善されるからです。 膝の人工関節の歴史は、股関節についで古く、日本では30年程前より始まっており、材質、形状の改良もあって、その手術成績も安定し、耐久性も良くなりました。 リウマチ患者さんが受ける人工関節の手術の中では膝が最も多く(約60%)、現在国内で年間3万件(リウマチ外の病気を含む)行われています。 人工関節の置換材料は、大腿骨側は金属製、下腿骨側がポリエチレン製という組み合わせが一般的であり、それぞれの部品は膝の骨の病変に対応できるように いろいろな形状のものが用意されています。 膝の人工関節の手術を受けるタイミングについてですが、レントゲン写真で膝関節の軟骨の消失、骨への影響があり、痛みのため歩行の制限が出始めれば、 そろそろ手術の時期を考えます。その理由は、歩行時の痛みが強いと、体を支えるために杖を使う、つかまり立ち、伝い歩きなどのときに上肢の力を借りるなど、 上肢への荷重負担がかかり、肩、肘、手関節への障害を進行させることになりかねないからです。膝関節自体も、骨破壊が進行すると、 変形・拘縮・柔部組織のゆるみ・骨の欠損・骨のもろさ、さらには筋力の低下などがおこり手術が難しくなります。 人工関節の手術を考えるとき、人工関節というその呼び名から、手術で関節部をまるごと入れ替えると誤解されている人が多いようです。 人工関節は関節の表面のすり合う面を再建することにあり、関節の表面だけを取り替えて軟骨部分の代用をする形状が基本になっています。 従って、人工の部品は骨にかぶせて、骨で支える構造になっていますので、手術は骨の形が残っているうちに、骨がもろくならないうちに受けるのが得策と考えられます。 術後は、通常1週間以内に歩行練習を始め、3~4週間で自力で歩行できるようになります。 その後の注意点としては、人工関節を大切にしようとして、少ししか動かないでいると骨や筋肉が弱くなりますし、 過度の歩行を続けると人工関節の擦り減りなどの問題が生じます。家の中の日常動作程度でしたら特に問題はありません。 適度の使用状況では人工関節の耐用年数は、20年位は大丈夫になってきました。 とはいっても一方では、その間に問題も起こります。人工関節のゆるみです。ひどくなれば再び人工関節を入れ替えることになります。 頻度としては術後15年で10%位の人が再置換術を受けています。 さらに、まれではありますが、感染の注意も必要です。足指などの傷、巻き爪の化膿が膝の人工関節までくることがありますので早く適切な処置をすること、 もし膝が腫れ、熱をもち痛みがでれば早く受診してください。人工関節に感染がおきても、早く対処すれば人工関節を抜去することなく治すことができます。

日常の注意点について

最後は、膝関節の悪化を防ぐための注意点についてです。 膝に痛みが出始めると、正座が難しくなります。そこで正座を続けようと努力すると、膝に無理なストレスがかかり、かえって膝を悪化させる原因になります。 日常では、膝に無理のない椅子の生活をすすめます。トイレも洋式にしてください。 膝関節では、大腿部前面の大きな筋肉「大腿四頭筋」が大きな役目をしています。膝関節を安定させ、体重を支えてくれる筋肉です。膝に障害があると、 この筋肉が弱くなって、膝が不安定になり、歩くとき、脚がガクガクして頼りなくなります。 膝に問題が出始めたなら、毎日この四頭訓練をすることを勧めます。訓練方法はいろいろありますが、その一つは椅子に座ってゆっくりと膝を伸ばし、 伸ばしきった状態で5~6秒保持し、そのあと同じ時間の5~6秒かけてゆっくりと足をおろす、という動作です。これは膝のいろいろな角度から四頭筋に力を入れますので効果的です。 この動作を10回位連続で行い、それを1日2~3回行います。いつでもどこでも、簡単にできますので長続きする方法です。 可動域訓練も大切です。他の関節でも同じですが、リウマチでは、関節を動かさないでいると、拘縮(固まること)の傾向があります。 日常使っている範囲に動きが制限されてきます。特に膝関節では、炎症があると膝の後方がつっぱり伸びにくくなり、そのままにしておけばやがて曲がった状態で固まろうとします。 そこで、毎日数回(少なくとも3回以上)は必ず最大限の曲げ伸ばしを行い、可動域を維持することが大切です。 膝が伸びにくい場合は、脚を伸ばして座り、その上から膝を抑えるなり、誰かに足首を脚の長軸方向へまっすぐ引っ張ってもらうなどしてください。 就寝時に膝を少し曲げて休むことは構いません。膝の下に枕などを置くことも一法です。それで得られる安眠は大切です。ただし、起床時に膝をしっかりと伸ばす訓練をお忘れなく。 さらに大切なことは、歩く姿勢です。膝に痛みがあると、膝を曲げた状態で、前かがみになり、おしりを突き出して、摺り足で歩こうとします。 摺り足歩行を続けると膝が曲がったままの形が固定化します。膝をしっかり伸ばし、おしりを前にせり出して歩こうと努力してください。

おわりに

膝関節を中心に説明してきましたが、ほかの関節の問題にも共通するところが多いと思います。リウマチを完治または寛解に導く決定的な治療法はまだ先のようです。現状はリウマチの全身療法としての薬物療法が中心になりますが、これと並んでリハビリ、手術などの関節の局所療法が必要に応じて適切に選択されることが重要であると考えます。