外科的診療

人工股関節置換術の説明  安達 永二朗

人工股関節置換術

股関節の治療法には、くすり(薬物療法)、装具療法、リハピリテーションなどの保存的療法と手術的療法があります。あなたの股関節は、十分な保存的療法にもかかわらず、その効果が無いことから、現時点では股関節を人工関節に置き換えることで、疼痛や関節機能の改善が期待できます。

人工股関節の効果

人工股関節置換術の効果は、現在ある股関節の痛みの軽減が期待でき、日常生活に必要な股関節機能の回復が期待出来ます。術後の股関節の可動域は、仲展は0゜から10゜程度の仲展制限を残す程度に回復すると期待できます。屈曲は手術前の程度によりまちまちですが、手術前に十分曲がっていた方では100゜くらい曲がると期待され、なんとかつま先に手が屈くくらいにはなると予想されます。術前の屈曲が非常に悪い方では、術後もそれほど改善は期待できず、術前の角度十αと考えられます。

手術方法

股関節は球関節(ポールとソケットの関飾)として知られており、大腿骨の丸い骨頭が骨盤に組み合わさってできています。股関節は軟骨や筋肉、腱に囲まれ、補強されています。こうした組織が股関節をサポートし、安定性やスムーズな動きを与えています。あなたの股関節では、この軟骨が障害を受け、表面が凹凸不正になっていたり、骨頭という本来球形の部分がつぶれていたり、あるいは臼蓋といわれる屋根の部分が削られていて滑らかに動かなくなっていると考えられます。したがって、この凹凸になった関節部分の骨を削り取り、人工の関節をかぶせる治療が現在のところ最も妥当な手術方法と考えられます。

図1

臼蓋側では、関節の表面の骨を半球状に薄く削り取ります。骨頭はその付け根で切り取ります。

図2 図3 図4
図5

大腿骨の内部は竹のように中空に近い構造になっているので、この中に人工関節を差し込んで固定します。臼蓋側は先ほど作成した半球状の骨の受け皿に差し込み固定します。

手術後の生活

股関節の場合、脱臼や早期の摩耗等の危険を避けるため、正座などは、手術前にできていれば術後も可能ですが、できれば手術後は洋式の生活(ベッド、椅子、洋式トイレなど)をお奨めします。スポーツは人工関節の摩耗という観点から、ジャンプや全力疾走、山登りなどはおすすめできません。長期間良好な生活を続けるためには、水泳やゴルフ、軽いウォーキング程度にとどめていただく必要があります。仕事は軽作業であれば可能です。農作業は、トマトやきゅうりなどの地上に実をつけるものは栽培可能ですが、大根やじゃがいもなど、地中に植わるものや、しゃがみ仕事をしなければならない作物は、摩耗や感染を予防するために栽培しないことが望ましいです。

手術に伴う諸問題

この手術には麻酔が必要です。現在ではほとんどありませんが、麻酔による危険性があります。また骨の手術であるため肺動脈塞栓症などの発生の可能性があります。そのほか手術中の予測不可能な出来事にたいして緊急の医療処置が必要となることもあります。手術中および手術後には、輸血を必要とします。輸血による間題点として血清肝炎などがあります。皮膚切開にともない知算異常(しびれなど) が術後に見られることがあります。まれにではありますが、股関節の周りに走っている神経(大腿神経、坐骨神経など)が傷害を受けることがあります。

人工股関節手術の諸問題(合併症)

合併症には手術後早期のものと、手術後時間がたってからおきるものがあります。


脱臼

脱臼とは、人工関節の継ぎ目の動く部分(骨頭と臼蓋との間:これを摺動面といいます)がはずれることで、一般の関節の脱臼と同様のことが人工関節でも起こり得ます。この脱臼は、人工関節の入れ方に問題がある場合、入れる人工関節の種類に問題がある場合、とるべきでない不自然な肢位を患者さんがとってしまった場合などに生じることがありますが、最も多いのは、患者さんが不自然な肢位をとってしまった場合です。当科においては人工股関節後に脱臼することは非常に稀(1-2%程度)です。原因としては、手術した下肢に筋力がなく、筋肉の緊張が少ない人に起こりやすく、術直後に最も多く発生します。さらに、術後は徐々に関節包の再生が生じ、筋力の回復と相まって脱臼の頻度はさらに減少します。しかしながら、頻回に脱臼を繰り返すようになってしまった場合、再手術が必要となります。


感染

人工股関節で最も注意を要することは細菌感染です。感染が骨に及ぶと骨髄炎を起こし、場合によっては人工股関節を抜かないと治療ができないことがあります。また、人工股関節手術後の感染には、なりやすい人となりにくい人がいます。なりやすい人は糖尿病、関節リウマチなどの病気や、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド) を内服している場合などです。以前股関節の手術を受けたことのある人や、股関節から膿が出ていたことがある人は、細菌が潜んでいる可能性があり、手術が出来るかどうか十分な検査が必要となります。体内に人工関節という異物がはいるため、細菌などがとどまって繁殖しやすくなり、また感染してしまうと治りにくくなります。感染は術後数日という早期に起こる場合もあれば、数年たって起こることもあります。浅いところの感染は通常抗生物質などで治療されますが、深い部位での感染は外科的な治療もしくは人工関節の抜去が必要になることがあります。


肺梗塞・肺塞栓(エコノミークラス症侯群)

股関節、脊椎、膝関節などの手術を行う場合、大腿部の静脈の中で血液が固まり (血栓)、静脈がつまることがあります。足の深いところで起こることを深部静脈血栓症といいます。大腿部でできた大きな血栓が肺に飛んだ場合、肺塞栓・肺梗塞となり、酸素が体に取り込めなくなります。欧米では以前より問題となっていましたが、幸い日本人には少なく、あまり問題にはなつていませんでした。しかし、食生活の変化とともに次第に増加しているようです。これまでの報告によれば、症状を呈する肺梗塞の患者さんは、5%弱発生するといわれています。当科では、手術時間の短縮と、早期から関節を動かすようにつとめることで、重篤な塞栓症の発生は経験していません。ただし、血栓症の既往のある方(脳血栓、肺梗塞)や、血栓が出来やすい体質の方(下肢静脈瘤、心雑音、心弁膜症、不整脈、肥満、糖尿病、高脂血症等)は注意が必要です。


ゆるみ

人工関節のなかには、設置してから長い年月が経過すると、人工関節が骨に固定されている部分で、骨がもろくなり吸収されることで、人工関節と骨の間にゆるみが出ることがあります。この様な状態を人工関節のゆるみといいます。これは、通常 15-20年程度でおこりますが、早い場合数年でおこることもあります。ゆるみがひどい場合には、人工関節の入れ替えの手術をしなければなりません。現在のところ、術後15年を経過すると、約10%の方に人工関節のゆるみのため再手術が必要になるという成績が一般的なようです。適切に手術が行われ、適切な術後の生活を送れば、20年以上の耐用年数が期待できます。また、定期的な外来観察(最低1年に1度)は必要です。


摩耗・破損

日常生活のあらゆる場面において、人工股関節は骨頭と人工の軟骨がこすれあって(摺動一しゆうどう一といいます)います。従って、長期間使用していると必ずすりへり(摩耗)が生じます。これまで国内で使用されてきた人工股関節のほとんどが、ポリェチレン(人工の軟骨にあたる)と金属(人工の大腿骨頭にあたる)の組み合わせです。この場合、10年で約1-2mmポリェチレンがすり減り、すり減ったポリェチレンの粉(摩耗粉)を細胞が取り込むと、この影響で骨が溶かされることがあり、通常15から20年も経つと人工股関節の周囲の骨が溶け、人工股関節を支えることが出来なくなる人がでてきます。早い場合7,8年でおこることもあります。長期に人工股関節を使用した場合、金属にひびが入り(金属疲労)、折損・破損することもあります。 20年前の人工股関節とは異なり、品質はかなり良くなっていることと100kgを越える体重の患者さんは日本人にはほとんどいませんので、それほどは問題にはならないものと考えられます。しかしながら、過度の摩耗のため人工関節のゆるみが生じた場合には、人工関節を入れ直すことがあります。


神経麻療・血管損傷

足の長さを延ばす場合(脚延長)、筋肉、腱はある程度延びますが、神経、血管は延びることができません。従って、無理に延長すると神経麻痺や血管損傷を起こすことがあります。経験的ならびに文献的には2cmまでは間題なく、 2.5㎝以上の延長で神経麻緯が出現したという報告があります。しかしながら、通常の人工股関節の場合には、ほとんど問題となることはありません。


人工関節以外の方法について

変形性股関節症の手術方法には、骨盤や大腿骨の骨を一部切切って、関節の適合が良くなるように形を変えて骨をつなぎ合わせる(骨きり術といいます)手術や、筋肉の一部を切る方法、関節を動かないように固定する方法(関節固定術)などがあります。骨きり術や、筋肉の一部を切る方法では、あなたの場合関節の痛みが十分取れるかどうか疑問があります。関節固定術は、今日、一般的な手術ではなくなってきています。手術以外の治療法としては、関節注射、装具の装着、リハビリテーションなどがあります。いずれもいちおうの効果はあると思われます。ただし、これらの治療は根治的なものではないので、ずっと続ける必要があります。関節の破壊は少しずつ進行していくと考えられます。関節の骨が削られて少なくなると、手術そのものが難しくなり、手術しても人工関節が早くゆるんでしまう心配があります。また、関節の動きが悪くなるタイプの方では、関節の動きが少しずつ悪くなっていくと考えられます。関節の動きが悪ければ悪いほど、手術後の回復が遅くなり、手術後の関節の動きが不良になります。